中国古典小説研究会

■2018年度関東例会■

プログラム

【午前】研究発表

  • 10:00 開会
  • 10:10-10:50(質問:10:50-11:00) 大塚秀高 『型世言』とその系譜に連なる白話短篇小説集

    『型世言』は崇禎四年から五年の間に、陸人龍が編集し、兄の陸雲龍が各篇ごとに序と尾評を書く形で人龍の書肆崢霄館から刊行された、全40篇からなる白話短篇小説集であって、八十年代後半に韓国のソウル大学校奎章閣で発見されるや、三言二拍一型ともてはやされ一大ブームを巻き起こしたが、近年そのブームもさり、研究も一段落の状況となっている。『型世言』にはその板木から眉批を削除し篇名を改めるなどして再編集した後継の小説集が複数存在する。『二刻拍案驚奇』からの10篇とあわせて全34篇とした『(別本)二刻拍案驚奇』、七篇しか現存しない残本『幻影』、『幻影』の改題本と思しい全30篇からなる『三刻拍案驚奇』がそれである。これに加え『型世言』には「二集」として刊行が予定されながら『清夜鐘』の名で刊行された陸雲龍の白話短篇小説集も存在している。本発表は、これらの小説集がいつ誰により刊行されたか、その間の関係はどのようになっているのかを考察しようとするものである。

  • 11:00-11:40(質問:11:40-11:50) 廣澤裕介 日中近世版画における「三国志」物語「借箭」「祭風」の図像化

    明代白話長編小説『三国志演義』に登場する諸葛亮は、気象条件が重要なカギを握る戦闘に何度か挑み、勝利を収める。そうした諸葛の活躍は、さまざまな版本の中で図像化されるとき、黒と白のみのモノトーンでどのように描かれたのか。曹操軍から10万本の矢を得る「借箭」、そして赤壁での「祭風」の2つの場面を対象にして、各版画の特徴と霧と風の表現について考えてゆきたい。中国・明代後期から日本・江戸末期にかけた「三国志」物語を語る諸本、諸作品を対象にして、各時代の豊かな表現を見てゆきたい。

【午後】シンポジウム「中国古典白話文芸の再生 ~翻訳・翻案の歴史・現状・展望~」(会員外参加可)

近年、中国古典白話文芸の翻訳があいついで刊行された。こうした動きは、中国古典文芸の受容・展開にどのような意味をもちうるのか。今回のシンポジウムでは、中国古典白話文芸を翻訳した研究者各位に加え、現代中国小説の翻訳家・泉京鹿氏や中国ものコミック作家・青木朋氏、滝口琳々氏らも迎え、「中国文芸」と「翻訳」、そしてそれらを踏まえた「翻案」「創作」などの視点から、日本における中国古典白話文芸の受容・展開について考えていく予定である。

■2018年度大会■

今年度の大会は台風21号の影響により、2日間の予定を1日に短縮して行われました。当初予定されていました2日目の発表及びシンポジウムは中止となりました。

  • 日時:2018年9月3日午後・4日午前・午後
  • 場所:龍谷大学 (大阪)梅田キャンパス(ヒルトンプラザ大阪 ウエストオフィスタワー14階)

プログラム

〔第1日〕9月3日 ●13:00- 研究発表

  1. 段書暁(早稲田大学・院) 近代的英雄像と転換期の中国―清末科学小説『電世界』を中心に

    中国古典小説では、「英雄」物語は重要な地位を占め、独特な英雄の体系を築き上げてきた。だが、近代になり、西洋科学が伝来し国家危機が顕在化すると、当時の中国人の「人間の潜在力」と「世界秩序」に対する理解に変化が生じ、「力」と「正義」の両面を併せ持つ英雄というものに対しても、新たな期待が持たれるようになった。本研究は、清朝末期の科学小説に現れた新しい「英雄像」に焦点を当て、『電世界』という代表的な作品の分析を通して、清末以前の中華英雄世界の土台になっていた「文」と「武」、「官」と「野」の対立という社会・文化的な基軸が、「科学」と「国家」という新たな統合的な枠組の出現によって如何に解消されたのかを検証する。これにより、「電学大王」という英雄像から見える、「最強の力」である「科学」と「絶対的な正義」である「国家」に対する想像の内実、さらに近代中国の世界観と倫理観の転換の複雑性と特殊性について考察する。

  2. 田村彩子(立命館大学非常勤) 『七国春秋平話前集』の史書から逸脱する部分について

    『全相平話五種』のうち現在では失われている『七国春秋平話前集』は、現存する『後集』や、そのほかの文献からその内容はおおむね『孫龐闘志演義』の内容であろうと言われているが、詳細は明らかになっていない。史書、類書、文言作品、白話作品、芸能のテキスト、道教資料などを詳細に比較検討することで、可能な限り詳細な復元を目指す。今回は、詳細な復元を目指す研究の一環として、『史記』『戦国策』などと合致しない架空の設定やストーリーであると思われる点について考察する。

  3. 中原理恵(京都大学・院) 『忠義水滸全伝』の版本流伝について

    水滸伝 120 回本には、『忠義水滸全伝』と、それを覆刻した『忠義水滸全書』の2種があり、本発表では前者の版本について、いわゆる袁無涯本ではないかと言われている北京大学図書館蔵本や、宮内庁書陵部蔵本など、従来の研究において扱われてきたものに加えて、発表者が現時点までに調査したものの書誌を示し、『忠義水滸全伝』の版本流伝について考察する。とくに、先行する版本とされるいわゆる袁無涯本と、その他書陵部本などとの関係について検討したい。

  4. 呉雨彤(京都大学・院) 小説『水滸伝』と戯曲『水滸記』―作品の構成から見た女性観の異同―

    豪傑の物語である長編小説『水滸伝』は、女性の登場人物に対して概して嫌悪に満ちた描写がされているが、『水滸伝』の宋江を主人公として翻案した明代許自昌の戯曲『水滸記』には、小説と異なる趣向も見られる。
    まず小説にない宋江の妻孟氏が登場することである。伝統演劇で多く見られる生と旦が物語を主導するパターンに沿って大団円の結末をつけようとする意図が見られると同時に、孟氏という理想的な妻を描くことで、「淫婦」である閻婆惜を批判する教訓的な効果ももたらしている。
    さらに、宋江に殺された閻の幽霊が愛人張文遠を連れ去る「活捉」など、閻をめぐる筋書も豊富になっている。閻に同情を寄せる一方で、徳義に背く情愛に対する批判も見られる。

終了後、懇親会

〔第2日〕9月4日 ●9:00- 研究発表(※中止)

  1. 廣澤裕介(立命館大学) 「借箭」「祭風」の図像化について
  2. 中塚亮(愛知淑徳大学非常勤) 『封神演義』の演劇作品における展開―聞仲ものを例として
  3. 上原究一(東京大学) 聖僧歴難簿が語るもの―百回本『西遊記』の成立をめぐって―

●11:40- 2018年度総会

●13:30- シンポジウム「新しい日本語翻訳がもたらす中国白話小説受容の新時代
~『楊家将演義』『中国古典名劇選』『封神演義』『金瓶梅』~」(※中止)

2010 年代に入り、中国の近世白話作品(小説・戯曲など)の日本語翻訳書の出版が相次いでいる。その一つの特徴は、若手研究者が中心的なメンバーとして加わったものが多い点である。東アジアのサブカルチャーが国境を越え、メディアや世代を超えて行き交う時代に、これらの翻訳書がどのような文化を生み出すのか。各作品の翻訳に関わったメンバーを迎え、翻訳の経緯、作業中の苦労話をふりかえりながら、出版後の反響などを楽しく語り、今後の中国白話小説・戯曲の受容について考えたい。

パネラー

  • 『完訳楊家将演義』 松浦智子(神奈川大学)
  • 『中国古典名劇選』 後藤裕也(関西大学非常勤)・西川芳樹(関西大学非常勤)・林雅清(京都文教大学)
  • 『全訳封神演義』 二階堂善弘(関西大学)・中塚亮(愛知淑徳大学非常勤)・二ノ宮聡(関西大学非常勤)
  • 『新訳金瓶梅』 田中智行(徳島大)※参加調整中

コメンテーター

  • 岩崎華奈子(九州大学研究員)
  • 上原徳子(宮崎大学)
  • 西川芳樹(関西大学非常勤)
  • 平塚順良(大阪大谷大学非常勤)